手順

ウルトラマラソンの歩き戦略|走る区間と歩く区間の決め方

ウルトラマラソンの歩き戦略を、地形・関門・体調の3軸で設計する方法。走る区間、歩く区間、再スタート条件を手順で解説します。

ウルトラマラソンの上り坂で計画的に歩くランナー
Photo by RUN 4 FFWPU on Pexels
目次
  1. はじめに
  2. ウルトラマラソンの歩き戦略を決める基準
  3. 走る区間と歩く区間の切り分け方
  4. 関門から逆算するラン・ウォーク計画
  5. 手順
  6. 歩行を入れる場所別の判断表
  7. よくある失敗と修正
  8. レース中の変更基準と中止判断
  9. 当日の判断ルール
  10. 出典

ウルトラマラソン 歩き 戦略の基本は、疲れてから歩くのではなく、ラン・ウォーク戦略として上り坂・給水・関門前後へ歩行を先に配置することです。走る区間には余裕を残し、歩く区間には終了条件を設けます。地形、関門までの時間、呼吸や脚の状態を順に確認すれば、歩き続ける展開を避けながら完走ペースを管理できます。

本記事には広告が含まれます。

はじめに

ウルトラマラソンで歩くことは、走れなくなった後の敗北ではありません。走行と歩行を合わせた総所要時間を短くし、関門内に収めるための手段です。大会準備の全体像はウルトラマラソン初心者ガイドで確認し、本記事では歩く場所と走りへ戻す条件に焦点を絞ります。

戦略的に歩く記事には、「歩く歩かないより、どうすれば速くゴールできるかを考えます。」という一節があります。重要なのは歩行の有無ではなく、ゴールまでの移動をどう組み立てるかです。ただし、歩きを細かく入れれば必ず脚が残るわけではありません。速過ぎる歩行や頻繁な切り替えは、かえって疲労を増やす場合があります。

ウルトラマラソンの歩き戦略を決める基準

ラン・ウォーク戦略を決める基準は、地形、関門、身体反応の3つです。国際ウルトラランナーズ協会が扱う超長距離競技は距離や時間、路面が多様なので、すべての大会へ同じ走歩比を当てはめるより、コース上の条件へ歩行を結び付ける方が実行しやすくなります。

マラソンペース戦略を延長するだけでは、路面と停止を含む超長距離の変化を扱い切れません。時計の速さに加え、運動強度自覚的運動強度が同じ方向へ変化しているかを見ます。呼吸の余裕はトークテスト、主観的なきつさはBorgスケールのような共通語で練習記録へ残すと、当日の感覚と比較しやすくなります。

最初の軸は地形です。野辺山100km大会公式は、スタートから10km先で林道へ入り、そこから15kmの砂利道が続き、累積標高は2,000mを超えると案内しています。このようなコースでは、距離だけで「何分走って何分歩く」と決めるより、長い上りや不整地を歩行候補にする方が迷いません。

次の軸は関門です。フィニッシュ制限に余裕があっても、途中区間だけ必要ペースが厳しい大会があります。歩行を入れる地点は、次の関門へ間に合う移動ペースを満たす範囲で決めます。歩く予定を作った後に関門表を確認するのではなく、関門表から歩ける時間を逆算する順序です。

最後の軸は身体反応です。ランニングエコノミーは、一定速度で走るために必要な酸素やエネルギーの効率を指します。Frontiers in Physiologyに掲載された65km研究では、男性ウルトラランナー15人が21.7kmを3周し、標高差±1093mのコースを走りました。研究本文は「ウルトラマラソン前後で酸素コスト、走行エネルギーコスト、RERが有意に増加した(p<0.01)」と報告しています(原文英語)。後半に同じ速さを保つ負担は、序盤と同じとは限りません。

編集部が公式コース情報と実走記事を重ねて確認すると、歩きは気分ではなく、地形と関門の交点に置くべきだと分かります。さらに研究が示す後半のコスト増加を加えると、計画には固定比率だけでなく、途中の再評価地点も必要です。

走る区間と歩く区間の切り分け方

ラン・ウォーク法は走行と歩行を交互に組み合わせる方法ですが、ウルトラマラソンでは「予定歩行」「調整歩行」「安全のための停止」を分けると判断しやすくなります。予定歩行は上りや給水所のように事前指定し、調整歩行は呼吸や脚の変化に応じて追加します。

ウォーキングへ切り替える際は、歩行中の目的を一つに絞ります。上りで負荷を抑える、飲食を確実に済ませる、呼吸を整える、といった目的です。目的を終えたのに歩き続けると、予定歩行が無計画な長時間歩行へ変わります。

走りへ戻す条件も、歩き始める条件と同時に決めます。たとえば「上りの頂点を越えた」「飲み込みが終わった」「会話できる呼吸に戻った」のように、コース上で確認できる言葉にします。歩容、つまり歩き方のパターンが崩れ、左右差や強い痛みが出た場合は、再スタート条件を満たしたとは扱いません。

flowchart TD
  A[次の区間を確認] --> B{安全上の異常があるか}
  B -->|ある| C[停止してスタッフへ相談]
  B -->|ない| D{予定した上り・給水・混雑か}
  D -->|はい| E[目的を決めて歩く]
  D -->|いいえ| F{関門余裕と呼吸が保てるか}
  F -->|はい| G[余裕ある速さで走る]
  F -->|いいえ| E
  E --> H{再スタート条件を満たしたか}
  H -->|はい| G
  H -->|いいえ| E

図1: 安全、地形、関門余裕、再スタート条件の順で走行・歩行・停止を選ぶ流れ。

ここでの要点は、歩く判断と走り直す判断を別々にしないことです。「疲れたら歩く」だけでは、疲労が強くなるほど走りへ戻す根拠がなくなります。「この条件で歩き、この条件で再開する」と対にすれば、当日の判断が短くなります。

関門から逆算するラン・ウォーク計画

マラソンのペース配分を100kmへ延ばすときは、単純な平均ペースではなく、関門閉鎖時刻と停止を含む総時間を先に確認します。ラン・ウォーク戦略では、走行ペース、歩行ペース、停止時間を別々に置かなければ、歩ける時間を過大評価します。

グロスタイムは号砲からフィニッシュまでの総所要時間です。100kmを12時間で完走する単純平均は7分12秒/kmですが、エイドやトイレなどで合計25分止まる想定なら、移動できるのは11時間35分です。この場合の必要移動ペースは約6分57秒/kmになります。

ウェーブスタートでは号砲時刻が組ごとに違うため、ネットタイムではなく大会が関門判定に使う基準を確認します。申告する予想完走タイムと実際の関門計算は、同じ数字とは限りません。スタートブロックでの待機、閉鎖後の収容車運用、分岐で使うルートナビゲーションも大会要項から拾い、歩行計画へ影響するロスを分けます。

タイム計算の解説は、「目標総時間−停止時間=移動可能時間、移動可能時間÷距離=必要な移動ペース」と整理しています。15秒/kmの差でも、100kmでは25分になります。歩きながら補給できれば停止を短くできますが、その歩行も移動ペースへ含めて検証します。

大会公式の数値も区間ごとに読みます。丹後100km公式の関門表では、WAVE Aのフィニッシュまでの制限は14時間、通算平均は8分24秒/kmです。一方、区間平均には8分49秒/km、8分00秒/km、8分59秒/km、7分50秒/kmなどの違いがあります。全体平均だけを守っても、厳しい区間の関門へ間に合うとは限りません。

ペース早見表を作る場合は、「予定通過時刻」「歩行予定」「停止上限」「再計算地点」の4列を設けます。前半で貯金を作るのではなく、各関門の余裕を失わない範囲で歩きを置きます。序盤の無理な走行で作った貯金は、後半の大きな失速で消えやすいからです。

手順

ラン・ウォーク戦略は、大会要項を読む、練習で基準を取る、地形へ配置する、関門から調整する、当日の変更条件を決める、の5段階で作ります。各段階に失敗例と修正方法を付けると、計画が紙上の比率で終わりません。

ステップ1: 大会要項と高低図へ歩行候補を書き込む

ルートナビゲーションに使うペース表を作る前に、大会要項からスタート方式、各関門の場所と時刻、給水所、路面、高低図を抜き出します。高低図には長い上り、急な下り、未舗装区間を印し、関門表には区間ごとの必要ペースを書きます。

失敗しやすいのは、標高差だけを見て坂の長さを見落とすことです。短い急坂と長い緩斜面では、歩行へ切り替える意味が違います。修正方法は、距離軸と高低図を同時に見て、「何km地点から何km地点まで」を候補として記録することです。

ステップ2: ロング走で走行・歩行の基準値を取る

ロング走ではGPSウォッチ(楽天 / Amazon / Yahoo!)を手動ラップにし、走る区間と歩く区間を分けて記録します。歩行を休憩として止めるのではなく、前進したまま呼吸が整うか、再スタート後に同じ余裕へ戻れるかを確認します。

戦略的に歩く記事は、走行ペース、歩行ペース、苦しくなった心拍数、呼吸が落ち着いた心拍数を確認する方法を示しています。ランニングピッチも記録できる場合は、再スタート直後に無理に元のピッチへ戻していないかを見ます。

失敗は、走る時間と歩く時間を同時に大きく変えることです。何が効いたのか分からなくなります。修正では片方だけを変え、同じコースで呼吸、脚、翌日の状態を比較します。

トレーニング負荷は、週間走行距離マラソントレーニング全体の中で評価します。本番前のテーパリング期には新しい走歩比を試さず、普段のウォームアップクールダウンも変えません。休養日を削って検証回数を増やすとオーバーユース障害の懸念が高まるため、筋力トレーニングを含む週間配置はウルトラマラソンの週間練習計画と合わせます。

ステップ3: 地形に連動した歩行ルールを作る

ランニングフォームが大きく崩れる地形を、予定歩行の候補にします。上りで歩幅が極端に狭くなり、走っても早歩きと速度差が小さい場面では、走ること自体を目標にしません。歩行で姿勢と呼吸を保ち、頂点や路面変化を再スタート地点にします。

失敗は「上りは全部歩く」「下りは全部走る」と一括指定することです。長い緩斜面をすべて歩けば関門余裕を失い、急な下りを走り続ければ脚への負担が増えます。修正では、坂の長さ、路面、次の関門までの余裕を合わせ、区間ごとに走行・歩行を決めます。

動作の確認にはランニングダイナミクスを使い、フットストライク接地時間の変化を見ます。ストライド上下動が増え、オーバーストライドになるなら、速度より姿勢を優先します。下りで地面反力制動力積を受け続けると、脚の負担が増えます。その負担は膝関節だけでなく股関節にも集まりやすくなります。数値を単独で良否判定せず、ランニング歩行分析として左右差と路面を合わせて読みます。

ステップ4: 給水・補給と停止時間を分離する

水分補給は、給水所へ入る前に飲むものを決め、走路の端へ移ってから速度を落とします。歩きながら飲める場面と、立ち止まって安全に処理すべき場面を分けます。補給を歩行区間へ重ねれば、移動を止める時間を減らせます。

エネルギージェルを取るときも、袋を開ける、飲み込む、水を飲むという動作を練習で試します。失敗は、歩行時間とエイド停止時間を同じものとして計算することです。修正では、動きながら済ませる時間と完全に止まる時間を別に記録し、必要移動ペースを再計算します。

暑い日は体温調節発汗率が変わり、脱水の兆候も計画へ影響します。電解質スポーツドリンク楽天 / Amazon / Yahoo!)、炭水化物を一度に増やさず、練習で受け付け方を確認します。吐き気や腹痛などの運動時の胃腸トラブルがあるときは、補給を急いで流し込むための歩行にしません。給水所ではマラソン大会の走行マナーを守り、給水用の紙コップを処理してから安全に走路へ戻ります。

ステップ5: 再スタート条件と中止条件を一行で書く

心拍数は単独の絶対値ではなく、練習で確認した呼吸や脚の状態と組み合わせます。「呼吸が会話可能な状態へ戻り、強い痛みがなく、次の関門余裕が保てるなら走る」のように、再スタート条件を一行にします。

失敗は、予定を守ることを安全より優先することです。視野が狭い、嫌な動悸がある、強い痛みで歩容が崩れる場合は、比率調整ではなく停止とスタッフへの相談を選びます。レース後はアクティブリカバリー運動後の回復を混同せず、症状に合わせて休みます。遅発性筋肉痛と通常の筋肉痛だけで判断せず、強い症状が残る場合はウルトラマラソン後のリカバリープランを参考にしつつ、必要に応じて医療機関へ相談してください。

歩行を入れる場所別の判断表

マラソンの給水所、上り、混雑区間では、歩く目的と走りへ戻す条件が異なります。水分補給を確実にする歩行と、脚を守る歩行を同じ基準で扱わないことが、ラン・ウォーク戦略を崩さないポイントです。

場面歩く条件走りへ戻す条件記録する項目
平坦路呼吸や脚が練習基準を外れたとき呼吸とフォームが基準内へ戻ったとき走行・歩行ペース
長い上り走っても早歩きとの速度差が小さいとき頂点または傾斜が緩んだ地点区間時間と心拍
急な下り接地が乱れ、制動が強くなったとき路面と姿勢を安定して保てる地点脚の張りと歩容
給水所飲食を確実に処理するとき飲み込みと容器処理が終わったとき歩行時間と停止時間
混雑区間接触や急停止の危険があるとき走路に安全な間隔ができたとき通過ロス
終盤関門余裕内で負荷を下げる必要があるとき短い走行を安全に再開できるとき次の関門余裕

表はレース中に読む説明書ではなく、事前の判断を短くするためのものです。実際の大会では、スタッフの指示とコース上の安全を優先します。

よくある失敗と修正

神経筋疲労が進んでから初めて歩くと、短い歩行だけでは走行動作が戻らない場合があります。ハシルコトの実走記事では、筆者が100km初挑戦から3回、60km以降に全身のダメージと膝の激痛で大きく崩れた一方、4回目は80kmまで比較的スムーズに進み、サブ10で完走したと記されています。個人例を万人へ当てはめることはできませんが、「限界後の歩行」より前に負荷を管理する必要性は読み取れます。

失敗1は、歩くことを最後の手段にすることです。 修正では、上り、給水、関門前の調整など、元気なうちから短い予定歩行を使います。予定どおり歩けたかではなく、歩行後に計画した走行へ戻れたかを評価します。

失敗2は、歩行を速くし過ぎることです。 息が整わず脚の張りも変わらないなら、歩行の目的を果たしていません。修正では歩行速度を競わず、目的が呼吸回復なのか、補給なのか、地形通過なのかを決めます。

失敗3は、走歩比を固定して地形を無視することです。 砂利道、長い上り、混雑した給水所では、時計だけの切り替えがコースと合いません。修正では距離や時間の比率を土台にしつつ、地形ルールを上位に置きます。

失敗4は、歩き始める条件だけを作ることです。 再スタート条件がなければ、気持ちが落ちた場面ほど歩行が延びます。修正では「上りの頂点」「飲み込み終了」「呼吸が基準内」のように、観察できる終了条件を添えます。

レース中の変更基準と中止判断

心拍ゾーンは運動強度を区分する目安ですが、レース当日は気温、補給、睡眠、緊張でも心拍が変わります。ラン・ウォーク戦略の変更は、心拍数だけで決めず、呼吸、脚、歩容、関門余裕を組み合わせます。

心拍ドリフトは、同じ運動強度でも時間経過とともに心拍数が上がる現象です。序盤と同じペースなのに心拍が上がり続ける場合は、短い調整歩行を入れ、呼吸と体感が戻るかを確認します。ただし、練習で確認していない数値を当日に新しい上限として使わないでください。

計画を変更してよい場面は、関門余裕が想定より少ない、暑さや路面が想定と違う、補給に時間がかかった、再スタート後の走行が保てない、といった場合です。変更後は次の関門まで全体を固定せず、次の給水所や地形変化で再評価します。

一方、視野の異常、嫌な動悸、強い痛み、まっすぐ進めない状態は、歩行比率で解決する課題ではありません。止まって大会スタッフへ伝えます。完走計画は、安全に競技を続けられる範囲でのみ有効です。

当日の判断ルール

ラン・ウォーク戦略の当日ルールは、4つに絞れます。予定した上り・給水・混雑なら目的を決めて歩き、平坦で呼吸と脚に余裕があれば走ります。基準を外れたら短い調整歩行へ移り、再スタート条件を満たせば短い走行から戻します。安全上の異常があれば、関門余裕にかかわらず停止します。

迷ったときは「今走れるか」ではなく、「この区間を走った後も次の区間で計画を選べるか」と考えます。歩行は選択肢を残すために使い、歩き続ける理由にはしません。次の地形変化、給水所、関門のいずれかを再評価地点にすれば、計画変更を小さく保てます。

出典