解説

RED-Sとは:女性ランナーが知るべき低エネルギー利用可能性

RED-Sとは何かを、低エネルギー利用可能性とエネルギー収支の違い、月経・骨・回復・走力のサイン、相談の目安から女性ランナー向けに解説します。

食事と体調の記録を確認する女性ランナー
Photo by Anh Tuấn Lê on Pexels
目次
  1. RED-Sとは何か
  2. 低エネルギー利用可能性はエネルギー収支と違う
  3. 女性アスリートの三主徴より広い概念
  4. 女性ランナーが気づきたいサイン
  5. RED-Sを疑ったときの確認と相談
  6. 3つだけ覚える判断基準
  7. 出典

RED-Sとは、スポーツにおける相対的エネルギー不足のことで、運動後に健康維持へ回せるエネルギーが足りず、月経、骨、免疫、回復、競技パフォーマンスへ影響し得る症候群です。体重が減っていない人や月経がある人も、ほかの変化と合わせて確認する必要があります。

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RED-Sとは何か

スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)は、食べた量の多い・少ないだけでなく、運動で使った後に身体機能へ残るエネルギーが十分かを問題にします。ランニングでは走行距離を増やした時期、食事を減らした時期、回復が遅れ始めた時期を同じ時間軸で見ることが大切です。

RED-Sの原因となる状態が低エネルギー利用可能性(LEA)です。低エネルギー利用可能性とは、摂取エネルギーから運動で消費した分を引いた後、基礎代謝、体温調節、ホルモン産生、骨の形成、免疫などへ配分できる量が足りない状態を指します。持久力トレーニングは消費量が大きくなりやすいため、以前と同じ食事のままトレーニング負荷だけを増やすと、意図せず不足へ傾くことがあります。

この概念は2014年にIOCが提示しました。女性だけを対象にせず、男性にも起こること、月経と骨だけでなく、代謝、血液、成長、心血管、胃腸、免疫、心理、パフォーマンスまで視野に入れる点が重要です。親記事の女性ランナーの月経・骨・鉄・安全をまとめた全体ガイドと併せると、RED-Sが女性特有の課題全体のどこに位置するかを整理できます。

ただし、RED-Sはこの記事だけで自己診断できる病名ではありません。体重、食事、運動消費、症状の測定には誤差があり、同じ疲労でも睡眠不足、感染症、貧血など別の原因があります。ここでの目的は診断名を付けることではなく、別々に見えていた変化を一つの記録にまとめ、相談を遅らせないことです。

低エネルギー利用可能性はエネルギー収支と違う

エネルギー収支が体重変化の結果を見る考え方であるのに対し、RED-Sで重視するエネルギー利用可能性は、運動以外の身体機能へどれだけ回せるかを見る考え方です。体重が維持されていても、身体が消費を抑えて帳尻を合わせていれば、低エネルギー利用可能性を否定できません。

エネルギー利用可能性は、次の式で表されます。

(摂取エネルギー − 運動による消費エネルギー)÷ 除脂肪体重

ここで除脂肪体重(FFM)は、体重から脂肪量を除いた重量です。身体組成の測定値を使う理由は、残ったエネルギーを必要とする組織量に対して評価するためです。一般的な体重計の推定値、食事記録、ランニングウォッチ楽天 / Amazon / Yahoo!)の消費量には誤差があるため、式は仕組みの理解に使い、家庭で計算した一つの値を診断に使わないでください。

PubMed Central掲載レビューは、健康な成人で十分な値として45 kcal/kg FFM/dayを示し、女性の低エネルギー利用可能性の臨床閾値として30 kcal/kg FFM/day未満が提案されていると整理しています。一方で、30 kcal/kg FFM/day以上でも最適値を下回れば影響し得ること、RED-Sの発症やパフォーマンス低下に必要な期間には合意がないことも記されています。

したがって、30と45の間を単純な「安全域」とは読めません。同レビューには、低エネルギー利用可能性の期間を数日〜約1か月、約1〜3か月、3か月超に分ける案がありますが、これは自己診断の時計ではありません。短期間でも不足が大きければ問題になり得る一方、一日だけ食事が少なかったことをRED-Sと決め付けるのも適切ではありません。

flowchart TD
    A["食事からの摂取エネルギー"] --> C["運動後に残るエネルギー"]
    B["練習による消費エネルギー"] --> C
    C --> D{"身体機能を支える量があるか"}
    D -->|"十分"| E["代謝・月経・骨・免疫・回復を維持"]
    D -->|"不足"| F["低エネルギー利用可能性"]
    F --> G["回復遅延・月経変化・骨損傷・走力低下"]
    H["食事量や補食を増やす"] --> C
    I["練習量を調整する"] --> C

RED-Sは体重だけでなく、運動後に身体機能へ残るエネルギーから考えます。

体重が変わらない例もあります。運動習慣と月経異常があり、エネルギー不足が疑われる18〜35歳の女性217名では、安静時代謝が予測値の90%未満へ低下していたことが確認されています。これは、代謝適応によって非運動性活動熱産生脂肪酸化を含む消費側が変化すれば、見かけ上のエネルギー収支が均衡し得ることを示す材料です。減量が止まったから食事をさらに削る、という反応は不足を深める可能性があります。

この点が、RED-Sを外見だけで見抜けない理由です。細身でなくても、身体が大きければ除脂肪体重や練習に必要なエネルギーも増えます。「体重が正常」「体脂肪率が高め」「食事は3食」という情報だけでは、運動後に残る量を判断できません。

女性アスリートの三主徴より広い概念

女性アスリートの三主徴は、低エネルギー利用可能性、月経機能異常、骨密度低下の連続体を捉える枠組みです。RED-Sはこの重要な関係を含みながら、影響する身体機能と対象を広げた概念です。

アメリカスポーツ医学会が関係団体と示した2014年の共同声明では、三主徴は「摂食異常を伴う、または伴わない低エネルギー利用可能性」「月経機能異常」「骨密度の低下」の3要素のうち、1つ以上を含む臨床状態とされています。3つがすべて重症になって初めて問題になるわけではありません。

月経機能が低下すると、骨量に関わる女性ホルモンの分泌も影響を受けます。骨密度が下がった状態で反復負荷が続くと、骨の微細損傷を修復しにくくなります。2014年の全国高校駅伝参加選手を対象とした調査では、疲労骨折の経験が男子32.0%、女子32.9%でした。この数字だけでRED-Sが原因だったとは言えませんが、長距離選手にとって骨の変化を見逃せない背景になります。

RED-Sでは、骨と月経以外も確認します。免疫低下、発育障害、性ホルモン低下、心理面の問題が挙げられ、競技面では筋力や有酸素運動能力、トレーニング反応、判断力、調整力、集中力、グリコーゲン貯蔵の低下、ランニングパフォーマンスの低下、けがのリスク増加などが含まれます。

つまり、「月経が来ているからRED-Sではない」とは言い切れません。月経は重要なサインですが、個人差があり、ホルモン剤の使用で自然周期の変化を読み取りにくい場合もあります。回復の遅れ、風邪の頻発、局所的な骨痛、食行動の変化、走力低下を同時に見ることで、月経だけに依存した見逃しを減らせます。

女性ランナーが気づきたいサイン

月経周期の変化、骨の一点に続く痛み、疲れが抜けない状態、感染症の増加、走力低下、食べ物への強い不安は、女性ランナーがRED-Sを疑う材料です。一つだけで決めず、走行量や食事の変化と同じ日付で記録します。

無月経には、初経が来ない場合や、月経が3か月以上止まる場合が含まれます。強い月経痛が続く月経困難症は無月経とは別の状態であり、同じものとして自己判断しません。TORCHの医師インタビューが伝える「無月経は病気」という言葉は、競技を続けているから月経が止まるのは当然、という見方への明確な反論です。生理中に走るか休むかの判断は、生理中のランニングを続けるか休むかのガイドで詳しく確認できます。

骨では、広い範囲の筋肉痛より、同じ一点に荷重で痛みが出るかを見ます。疲労骨折は、繰り返す負荷で起きる微細損傷に修復が追いつかない状態です。休めば一時的に軽くなっても、走ると同じ場所が痛む場合は、走りながら様子を見るより医療機関での評価を優先します。ランニング障害オーバーユース障害をフォームだけの問題にせず、栄養と回復も含めて確認する視点が必要です。

疲労には別の原因もあります。鉄欠乏性貧血は、息切れ、だるさ、走力低下と重なることがあり、RED-Sだけでは区別できません。血液検査ではヘモグロビンだけでなく、貯蔵鉄を反映するフェリチンも判断材料になります。女性ランナーの貧血の原因と見逃しやすい症状も確認し、必要なら血液検査を含む医療評価へ進んでください。

運動後の回復は、翌日の筋肉痛だけでなく、睡眠、気分、食欲まで含めます。記録には安静時心拍数心拍変動(HRV)、同じペースでの自覚的運動強度も使えます。睡眠時間を確保しても疲れが続く、軽い回復走で以前より消耗する、風邪を繰り返す場合は、練習不足ではなく回復へ回る資源の不足かもしれません。

領域気づきたい変化記録する項目相談を急ぐ目安
月経周期の乱れ、経血変化、月経停止開始日、周期、ホルモン剤の使用月経が3か月以上止まる、初経が来ない
骨・けが同じ一点の痛み、反復する故障痛む場所、荷重時痛、走行距離疲労骨折歴、歩行でも痛む、局所痛が続く
回復疲労が抜けない、寝ても回復しない睡眠、安静時体調、休養日日常生活へ支障、症状が悪化する
免疫風邪を繰り返す、体調不良が長引く発症日、練習休止日、発熱強い症状、長引く感染症
走力同じ練習で失速、集中しにくいペース、主観的強度、練習達成率急な低下、ふらつき、胸部症状
食行動主食回避、カロリーへの強い恐怖食事・補食、制限ルール極端な減量、摂食障害が疑われる

childrenshospital.orgのREDs解説では、直近1か月に体重の5〜10%を失ったこと、不規則な月経、疲労骨折歴を中等度リスクの例に挙げています。また、問診では弱さ、疲労、風邪の頻発、月経中断、練習量の増加、パフォーマンス低下、食習慣を確認するとしています。

「体重が減っていないから大丈夫」という自己判断は避けてください。見かけの体重が同じでも、食事の質、筋量、体液、代謝は変化します。体重の数字だけでなく、どの時期に練習が増え、食事や月経、骨痛、回復、走力がどう変わったかが重要です。

RED-Sを疑ったときの確認と相談

スポーツ栄養の観点では、RED-Sを疑ったときにタンパク質楽天 / Amazon / Yahoo!)だけを追加するのではなく、総エネルギーと運動消費の両方を見直します。練習で使う燃料と、練習後に身体機能へ残すエネルギーを分けて考えてください。

まず、直近4週間のマラソントレーニングトレーニング記録として一枚にまとめます。週ごとの走行距離と高強度日の数、運動強度食事と補食のタイミング、体重変化、月経、骨の痛み、睡眠、風邪、同じ練習でのきつさ、休養日を記録します。低エネルギー利用可能性には、慢性的に不足するパターン、体重が減った時期と月経停止が重なるパターン、練習量を増やした時期と月経停止が重なるパターンがあります。

食事では、炭水化物を極端に減らしていないか、長い空腹時運動を習慣化していないかを確認します。炭水化物は持久系運動の燃料であり、主食を避けたまま走行距離を増やすと不足が拡大しやすくなります。食事性たんぱく質筋タンパク質合成に必要ですが、総エネルギーが足りない状態を単独で解決するものではありません。

バランスの取れた食事という言葉を、毎食を完璧にする指示へ変えないことも大切です。朝食を抜かない、練習前後に食べられる補食を用意する、主食・主菜・副菜を極端に削らないなど、続けられる変更から始めます。食べる量を増やすことへ強い恐怖がある場合は、一人で量を決めず、公認スポーツ栄養士や摂食問題を扱う医療職へ相談してください。

相談先は一つに限定されません。骨の局所痛や運動時の強い症状はスポーツ整形外科・スポーツ内科、月経停止や周期の大きな変化は婦人科、食事と練習量の調整は公認スポーツ栄養士が候補です。日本スポーツ協会が提供する指導者制度やスポーツ医・科学情報も、安全に運動を続けるための確認先になります。専門家は症状だけでなく運動後の回復と練習歴も合わせて評価します。摂食障害や強い不安が疑われる場合は、心理・精神面を扱う専門職も含めた連携が必要です。

月経や骨痛などの赤信号があるときは、カロリー計算の精度を上げることより相談を優先します。低エネルギー利用可能性の原因を改善するには、摂取を増やす方法と運動消費を減らす方法があります。どちらをどの程度変えるかは、症状、競技予定、医療評価、食行動を踏まえて個別に決めます。

産後の授乳や回復では必要なエネルギーと身体状況が異なるため、一般的なRED-Sの自己判断に当てはめないでください。該当する場合は、産後ランニングの段階的な復帰手順と医療者の個別評価を優先します。

3つだけ覚える判断基準

スポーツにおける相対的エネルギー不足(RED-S)について覚える点は、体形では除外しないこと、複数領域を同時に見ること、赤信号では自己計算より相談を優先することの3つです。

  1. 体形では除外しません。 RED-Sは「痩せているか」ではなく、運動後に健康維持へ回せるエネルギーが足りるかの問題です。体重が安定していても、回復や月経、走力に変化があれば記録します。
  2. 月経だけで判定しません。 月経周期に加えて、骨の一点の痛み、疲労、風邪、睡眠、食行動、同じ練習でのきつさを同じ時系列で見ます。一つの症状だけでRED-Sと決めず、複数の変化が重なるかを確認します。
  3. 赤信号では相談を先にします。 月経が3か月以上止まる、直近1か月で体重の5〜10%を失う、疲労骨折歴がある、局所的な骨痛が続く、日常生活へ支障がある場合は、走行量を増やさず専門家へ相談します。

30 kcal/kg FFM/day未満や45 kcal/kg FFM/dayという値は、診断の合否線ではなく仕組みを理解する目安です。RED-Sを疑う記録がそろったら、自己判断で食事制限や追加練習を重ねず、医療とスポーツ栄養の両面から確認してください。

出典