解説

乳酸カーブテストの読み方と使い方|LT1・LT2を練習へ落とす

乳酸カーブテストの手順、LT1・LT2の読み方、携帯型測定器の精度、心拍数やRPEへの落とし込み方を市民ランナー向けに解説します。

乳酸カーブテストでランナーの血中乳酸濃度を測定するスポーツ科学施設
Photo by Stephen Leonardi on Pexels
目次
  1. はじめに
  2. 乳酸カーブテストとは
  3. 測定プロトコルをそろえる
  4. カーブからLT1・LT2をどう読むか
  5. ポータブル測定器はどこまで信頼できるか
  6. 測定結果をトレーニング強度へ移す
  7. 乳酸値を使った練習は誰向けか
  8. 採血なしで推定するときの限界
  9. 再測定で改善を判定する
  10. 目的別に選ぶ測定方法
  11. 非侵襲ウェアラブルの現在地
  12. 3つの判断基準
  13. 出典

乳酸カーブテストは、段階的に走速度を上げながら血中乳酸濃度を測り、乳酸性作業閾値を心拍数・ペース・きつさへ対応させる検査です。4 mmol/Lという一点を探すだけではなく、同じ手順で得た曲線の形と変化を読み、日々の練習強度を個人化するために使います。

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はじめに

本記事は、検査の流れからカーブの読み方、携帯型測定器の限界、採血しない推定法までを一続きに整理します。対象は、フルマラソントレーニングGPSウォッチの推定LTだけでは練習ペースを決めきれず、施設検査や自己測定へ進む価値を判断したい市民ランナーです。

乳酸カーブテストとは

乳酸カーブテストは、段階的な運動負荷ごとに血中乳酸濃度を測り、速度または出力に対する反応を曲線として表す検査です。単発の乳酸値ではなく、楽な強度からきつい強度までの「変化の形」を見る点に意味があります。

持久力トレーニングでは、最大酸素摂取量だけで走力を説明できません。どれだけ高い割合の有酸素能力を維持できるか、同じ速度にどれだけ少ない酸素・エネルギーで対応できるかも重要です。そこで、心肺体力の一側面であるLTを、最大酸素摂取量ランニングエコノミーと分けて確認します。

測定プロトコルをそろえる

運動強度を段階的に上げるプロトコルでは、速く走ることより、各段階の条件をそろえることが優先されます。初回と再測定で手順が変われば、曲線の移動がトレーニング効果なのか測定差なのか判別しにくくなります。

ランニングの基礎知識に掲載された測定例では、安静時の測定後、毎分250~375mの速度で3分間のランニングを6セット行います。各ステージ終了後には、血中乳酸濃度を測るため耳たぶから微量採血します。

「最初に安静時の測定を行った後、3分間のランニングを6セット」— ランニングの基礎知識

トレッドミルに慣れていない人は、屋外と同じ感覚で速度を上げられない場合があります。検査前に走行面へ慣れ、シューズ、前夜の睡眠、直前の負荷、測定時刻、食事、水分補給、室温を記録しておくと、再測定の比較条件が明確になります。

「各ステージ終了後の血中乳酸濃度を測定するため耳たぶから微量の採血を行います。」— ランニングの基礎知識

採血の停止時間は休息でもあります。速度を上げるテストでは、停止を含むプロトコルと連続走のプロトコルを混同できません。トレーニング負荷が同じに見えても、運動と停止の配列が違えば内部反応は変わります。再検査では、ステージ時間、速度の増分、採血タイミングを前回と同じにします。

検査当日に体調不良や強い筋肉痛があるなら、予定日を守るより延期を選びます。比較可能なデータを作ることが目的であり、不調時の曲線を通常値として採用すると、その後の練習設定までずれます。

カーブからLT1・LT2をどう読むか

LT1とLT2は、乳酸カーブ上の二つの変化点を説明する呼称です。乳酸性作業閾値を一つの自然定数として読むのではなく、どの算出法を採用した値かを結果表に残す必要があります。

LT1は、安静域に近い値から乳酸が持続的に増え始める側の変化点です。LT2は、より高い強度で増加が加速する側の変化点として扱われます。ただし、目視、基準値からの増分、固定濃度、曲線計算では位置が一致しません。

最大乳酸定常状態(MLSS)は、一定負荷で乳酸の産生と除去が大きく崩れずに保てる最高強度を考える概念です。複数日にわたる一定負荷試験が必要になるため、段階的テストのLTはその実用的な近似として利用されます。LT2、4 mmol/L、MLSSを同義語として扱わないことが重要です。

読み方何を基準にするか長所限界
LT1安静域からの最初の持続的上昇低強度と中強度の境界を考えやすい目視判定は評価者差が出る
固定4 mmol/L曲線が4 mmol/Lに達する速度・出力計算が簡単で比較しやすい個人の基礎値を反映しない
Dmax modified曲線と基準直線の最大距離曲線全体を使って算出するデータ点と近似法に依存する
MLSS一定負荷での乳酸の定常性持続可能な高強度へ近い複数回の試験が必要になる

PLOS ONEの閾値法比較では、18〜50歳の訓練された男性サイクリング競技者48人が、2週間隔で5回の段階的テストを行い、8種類の閾値法を比較しました。再現性はCronbach’s alpha 0.89–0.96、個人内CVは**3.4–8.1%**でした。

この研究はDmax modifiedを再現性と予測性の両面で推奨し、簡便な代案として固定4 mmol/L法もほぼ同等と評価しました。ここから読めるのは「4 mmol/Lは誤り」ではなく、「便利な方法の一つであり、どの方法を使ったかを固定して比較する」という実務です。

同じ結果表でも、算出法を変えればLTペースが動く可能性があります。検査施設には、LT1・LT2をどの定義で抽出したか、前回と同じ方法で解析したかを確認してください。曲線の右方移動を追うなら、解析方法の一貫性が必要です。

ポータブル測定器はどこまで信頼できるか

携帯型血中乳酸分析装置 (楽天 / Amazon / Yahoo!) (楽天 / Amazon / Yahoo!)は、練習現場で迅速に値を得られる一方、研究室用装置と完全に同じ数値を返すとは限りません。

Sports Medicine誌の2026年系統的レビューは、データベースで見つかった253件から25研究を採択しました。Lactate Pro、Lactate Scout、Accutrend、Lactate Plusなどは基準装置とr = 0.95–0.99の強い相関を示し、信頼性も**ICC > 0.90、CV < 5%**でした。

ただし、相関は上下の動きが似ていることを表し、同じ絶対値を返す保証ではありません。同レビューは6 mmol/Lを超える高濃度域で、複数モデルに系統的な過大評価または過小評価があると整理しています。高強度の一点を厳密に比べる用途ほど、この差を無視できません。

アスリートサポートの乳酸測定では、耳朶または指先の毛細血管から微量採血し、ラクテートプロ2で測定しています。

「採血してから15秒で結果が表示されます。」— アスリートサポート

自己測定では、装置の選択より先に採血技能がボトルネックになります。汗、消毒液、血液量、センサーの保管、測定までの時間が変われば、装置そのものの再現性とは別の誤差が加わります。最初の数回は、運動中の一人採血ではなく、補助者と静かな環境で手順を練習すべきです。

測定結果をトレーニング強度へ移す

測定結果をトレーニング強度へ移すときは、LTのペースだけでなく、心拍数自覚的運動強度(RPE)を同じ行に残します。速度は外部負荷、心拍とRPEは内部反応を補うため、三つを組み合わせると環境変化へ対応しやすくなります。

曲線上の領域速度・出力の使い方心拍の使い方RPE・会話の確認
LT1より十分低いアクティブリカバリーや長い有酸素走の上限を確認通常日の範囲を記録会話が続き、余裕がある
LT1付近有酸素走の上限候補心拍ドリフトを観察短文ではなく会話を維持できる
LT1〜LT2ペース走マラソンペースの候補速度と心拍の組み合わせを記録制御できるが集中が必要
LT2付近閾値インターバルの上限候補同じ反復内の上昇を監視短い返答になり、長時間は保てない
LT2より上高強度反復として別管理心拍の遅れを考慮反復時間と回復を優先

心拍ゾーンは、検査日のLT心拍を起点に作れます。心拍予備能を使う方法では安静時心拍数も計算へ含めますが、乳酸カーブ由来のLT心拍とは別の基準です。ただし、暑さ、脱水、疲労、睡眠不足で心拍は変わります。固定した心拍上限を超えたら即失敗とせず、同じペースでのRPEと会話可能性を見て調整します。

RPEを記録するなら、Borgスケールなど一つの尺度へ統一します。毎回違う「楽・普通・きつい」の言葉だけでは、再測定までの変化を追いにくくなります。練習日誌 (楽天 / Amazon / Yahoo!)には、ペース、平均心拍、終盤心拍、RPE、気温、主観的な脚の状態を同じ順で残してください。

乳酸値を使った練習は誰向けか

乳酸値を使った練習は、閾値走インターバルトレーニングの内部負荷を、予定ペースだけでなく血中乳酸濃度で制御したい選手・コーチに向きます。測定そのものが目的ではなく、速すぎる反復を抑え、LT2より上の高強度インターバルと閾値走を区別する判断に使います。

International Journal of Environmental Research and Public Health誌のレビューは、世界級中長距離選手の乳酸ガイド型閾値インターバルを記述しています。モデルは週3〜4回のLGTIT、週1回のVO2max強度セッション、全体で週150–180 kmの低強度中心という構成でした。

その閾値セッションでは、目標血中乳酸濃度が2 to 4.5 mmol·L−1、測定は1 to 3 repetitionsごととされています。これは市民ランナー向けの標準メニューではなく、高い走行量と頻回セッションに耐える世界級選手の文脈です。

ポラライズドトレーニング二重閾値トレーニングの表面だけを取り入れ、採血値に合わせてポイント練習を増やすのは逆効果です。レビュー自体も、乳酸で内部負荷を制御するモデルが従来法より最適かは明確でなく、介入研究が必要だと述べています。

市民ランナーが応用するなら、頻度ではなく制御の考え方を縮小して使います。たとえば、閾値インターバルの後半でペースを守るため乳酸が上がり続けるなら、ペース目標より内部負荷を優先して反復を止めます。運動後の回復が次の質の高い練習に間に合うかも判断材料です。

採血なしで推定するときの限界

採血なしの推定は、直接の血中乳酸濃度ではなく、心拍、速度、呼吸、RPEから閾値に近い領域を見つける方法です。精度の不足を理由に捨てるのではなく、日常で反復しやすいモニタリングとして位置づけます。

トークテストでは、会話のしやすさを低強度の上限確認に使えます。走りながら自然な文章が続かなくなったら、低強度日のペースを下げる合図になります。無料で毎回使えるため、年に一度の施設検査より日常の逸脱を早く見つけられる場面があります。

RPEも、同じコースと速度で記録すれば変化を追えます。検査で得たLT付近の感覚を覚え、ウォームアップ、一定走、終盤で数値化します。心拍ドリフトが見られてもRPEが通常なら暑さの影響かもしれず、心拍とRPEがともに高ければ疲労を疑えます。

GarminForerunnerには乳酸閾値測定を支援するモデルがありますが、ウォッチが示す値は採血による乳酸カーブそのものではありません。光学式心拍計測最大心拍数胸部心拍センサー (楽天 / Amazon / Yahoo!)、速度の変化を使う推定は、日常的な更新には便利でも、装置による血中乳酸濃度と同じ単位の検査結果として扱わないでください。

採血なしで十分なのは、週の多くを有酸素運動として安定して行い、閾値付近の練習が週1回程度で、目的が「上限を超えないこと」にある人です。施設検査を優先するのは、長期間停滞している、心拍とRPEが一致しない、レースのペース戦略を見直したい、またはコーチと同じ基準を共有したい場合です。

再測定で改善を判定する

再測定は、乳酸性作業閾値の一点が上がったかだけでなく、同じ乳酸濃度での速度、同じ速度での濃度、対応する心拍とRPEを並べて判定します。曲線全体がどう動いたかを見ると、単一のLT判定誤差に振り回されにくくなります。

次の四列を前回と今回で比較してください。

  1. 同じ速度での血中乳酸濃度
  2. 同じ濃度に達した速度
  3. 各段階の心拍数
  4. 各段階のRPEと呼吸感

同じ速度で乳酸が低くなり、同じ濃度でより速く走れたなら、代謝適応を示す材料になります。ただし、その日の神経筋疲労やランニングエコノミーの差かもしれません。体調、気温、シューズ、トレッドミル、採血者、機器を記録し、複数の変化をまとめて見ます。

最大酸素摂取量測定を並行する施設では、LTの変化が最大能力の変化なのか、最大能力に対する維持割合の変化なのかを分けやすくなります。アスリートサポートも、乳酸測定と酸素摂取量測定を並行すると、より精密な評価が可能だと説明しています。

再測定の頻度は「年2回」のような数字から決めず、設定を変える意思決定に合わせます。トレーニングのピリオダイゼーション上の基礎期終了、閾値ブロックの前後、長い停滞の検証など、結果に応じてメニューを変えられる時点に置きます。結果を受けても同じ練習を続けるなら、測定を急ぐ理由はありません。

目的別に選ぶ測定方法

市民ランナーの選択肢は、乳酸カーブテストを施設で受ける、携帯型装置で自己測定する、ウォッチやRPEで推定する、の三つです。予算だけでなく、何回使うか、採血を誰が行うか、結果をメニューへ反映できるかで選びます。

方法初回の確実性反復しやすさ必要な技能向く目的
施設の乳酸カーブテスト手順と説明がそろいやすい予約と移動が必要受検者は低い初回基準、競技期の設定見直し
携帯型測定器採血手順に左右される装置と消耗品があれば高い採血・衛生・記録練習中の内部負荷管理
ウォッチ推定機種のアルゴリズムに依存日常的に更新しやすい胸部心拍計の装着などペース・心拍の目安更新
RPE・トークテスト血中乳酸は直接測らない毎回使える尺度を統一する低強度日の上限管理
flowchart TD
    A[目的を決める] --> B{初回の基準が必要か}
    B -->|はい| C[施設で乳酸カーブテスト]
    B -->|いいえ| D{練習中に反復測定するか}
    D -->|はい| E{採血担当と衛生手順があるか}
    E -->|はい| F[携帯型測定器を検討]
    E -->|いいえ| G[心拍・RPE・会話テスト]
    D -->|いいえ| G
    C --> H[速度・心拍・RPEへ変換]
    F --> H
    G --> H
    H --> I[同じ条件で推移を比較]

目的、反復頻度、採血技能から測定方法を選び、最後は同じ条件で推移を比較します。

自己測定は、装置代だけで判断しません。専用センサー、ランセット (楽天 / Amazon / Yahoo!)、消毒、廃棄、補助者、記録時間まで運用へ含めます。一人で走りながら採血することが練習の流れを壊すなら、測定頻度の高さは利点になりません。

非侵襲ウェアラブルの現在地

非侵襲ウェアラブルは、汗や光学信号から乳酸に関連する変化を連続的に捉えようとする技術です。しかし、血液を測らない値を、直ちに血中乳酸濃度の代替として扱える段階ではありません。

2026年の携帯型分析装置レビューは、汗乳酸センサーと血液ベースの測定器との一致が一貫せず、水分状態、発汗速度、皮膚汚染などの影響を受けると整理しています。連続表示できることと、血液の値へ正確に換算できることは別です。

一方、非侵襲技術はトレーニング強度分布を長期に追う用途で価値を持つ可能性があります。絶対値がラボと一致しなくても、同一デバイス内の変化が安定し、外部負荷と組み合わせられれば、練習の偏りを見つける補助になります。購入判断では「乳酸を測る」という広告文より、血液測定との妥当性研究と校正方法を確認してください。

3つの判断基準

  1. 目的:レースペース、低強度の上限、閾値インターバルの過負荷防止のどれを決めたいか明記します。
  2. 再現条件:機器、算出法、ステージ、採血部位、直前の練習をそろえ、同条件で比較します。
  3. 実行可能性:結果を心拍・RPE・ペースへ変換し、次の練習で使える方法だけを選びます。

検査値が精密でも、ペーシングへ変換できなければ役立ちません。逆に、非採血推定でも毎回同じ方法で記録し、回復区間や翌日の疲労を調整できるなら、日常の判断には十分な場合があります。

出典

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